2010年12月2日木曜日

カサヴェテスを簡単に観てはいけない

ついに仕事を辞めた。最後はとてもあっけなくて、会社の建物から外に出たら、心許ないような、嬉しいような、複雑な気分に取り巻かれた。来年からは新しい仕事が始まる。

「ER」の第14シーズンを観た。アメリカでは既にファイナルの第15シーズンの放映がとっくに終わっているが、DVDがレンタル屋に並ぶのはまだ先の話だろう。第1シーズンから律儀にレンタルで見続けてきたが、この14シーズンは全19話とこれまでで一番短く、エピソードの流れも比較的あっさりしている。ルカの不在がストレスとなり静かに崩壊していくアビーのストーリーを中心に、プラットの一進一退の色恋沙汰、新入りドクターに幻惑されるドゥベンコ、脚本家たちの戦略によって無駄に好感度を上げ続けるモリス、サムとトニーの急接近、などが散りばめられているが、実は本シーズン最大の見所は、ニーラが面倒を見るインターンのハロルドだろう。最初に登場したエピソードでは見るに耐えないと思ったが、回を追うごとにハロルドの言動がツボに入り、最終的にはハロルドが何か言うたびに爆笑するまでになっていた。ナポレオン・ダイナマイトに通じるキャラクター。吹替の声優も非常にうまいと思う。

片思いのようなカサヴェテス熱は依然として続いている。というか、ほとんどの情報がいとも簡単に手に入ってしまうこの時代に、こうも満足に作品を観られないというのがまた、たまらんものがある。手元には「ジョン・カサヴェテスは語る」「カサヴェテス2000 劇場用パンフレット」「Switch別冊 映画監督ジョン・カサヴェテス特集」というカサヴェテス関連の書籍(どれもナツが買ったもの)がかき集められ、とっかえひっかえ読んでは、日本ではDVD化されていない「ハズバンズ」に思いを馳せたり、「ミニー&モスコウィッツ」のスチールを見ただけで泣けてきそうになったりして、自分でも異常だと思う。とにかく、イーストウッドやコーエン兄弟やリンチのようには、簡単にコンプリートで観ることはできないジレンマに直面している。

今では僕もご多分に漏れずインターネットの恩恵に与っているわけだが、今回の「カサヴェテスが観たいのにちゃんと観られないジレンマ」は、ネットの無かったかつての日々を懐かしく思い出させてくれる、心地よいジレンマでもある。16才の頃、札幌の南3条の雑居ビルにあったミニシアター「イメージ・ガレリオ」に足繁く通い、画像の粗いチラシを見て「どれを観るか」で胸を躍らせたのを思い出す。どれも面白そうだし、今風に言えば「ヤバそう」なんだけど、母子家庭の高校生のお小遣いには限界があり、自分の嗅覚だけで厳選した映画しか観られなかった。いろいろ観たけど、中でもメカスの「営倉」、松井良彦の「追悼のざわめき」などは強烈な印象(というか爪痕)が心に残っている。もちろん、チラシの限られた情報だけで選ぶから、失敗も多く経験したけど、それも今思えば貴重な体験をさせて貰ったと思っている。あのコンクリート臭いみすぼらしいビルの階段をワクワクしながら上がっていった気分は、忘れられない。

数年後に札幌で半年間一人暮らしをした時期は、毎日のようにレンタルビデオ屋に通って、正に映画漬けの日々だった。毎日通っていた平岸のレンタル屋で観たいものを借り尽くしてしまったように思えて、休みの日に地下鉄で適当な駅で降りてレンタル屋を探し、ビデオを漁ったりもした。何処の駅近くだったか忘れたが、ケネス・アンガーの「マジック・ランタン・サイクル」というVHS2巻組の作品集を置いている店があって、何も考えずに借りたはいいけど、帰りの地下鉄代が無くなってしまった。しかも僕は極端な方向音痴で、自分がいま居る場所と、自宅のある平岸との位置関係がまるで分からない。しょうがないので、小脇にケネス・アンガーのビデオを抱えて、煙草を吸いながら(当時は今より路上喫煙に対して世間が寛容だった)、勘だけで自宅まで歩いた。どうやって帰り着いたのか全く憶えていないが、2時間ぐらいはかかったと思う。帰宅すると膝がガクガクになっていて、喉もカラカラだった。ひとまずコーヒーを入れて一服してから、「スコピオ・ライジング」を観た。あの時の解放感、充実感もまた、忘れられない。

今日はようやくメディアテークの音響ライブラリで「アメリカの影」と「フェイシズ」を借りてきて、手始めに「アメリカの影」を観た。この映画を、あの10代の頃にガレリオで観ていたら、さぞかし甘美な思い出となったことだろう。間違いなく、映画館の暗闇の中で、スクリーンで観るべき作品であった。それを不覚にも、自宅の小さなブラウン管テレビで、猫を膝に抱きつつ炬燵に入って観てしまった。あの随所のジャンプカットの寒い快感や、役者の即興から醸し出される絶妙な緊張感、えも言われぬいかがわしさがスクリーンに投影される様は、きっととんでもなく美しいに違いない。カサヴェテスの映画はきっと、簡単に・不用意にビデオやDVD、ネットなどで観てしまってはいけないのだ。1本1本、辛抱強く、東京などの単館で特集されるのを待ちながら、ジワジワと何年もかけて観ていくのが正しいのだろう。その情報も、ネットなどで調べているようではダメだ。映画好きの東京の友達(この場合、札幌のガレリオの思い出を共有する唯一の友達である小柳さんが適役)から突然電話が来て「来週、中野でカサヴェテス特集やるよ!」と教えてもらうのが最高だ。







ドイツのStaubgoldから、フライング・リザーズの"The Secret Dub Life of the Flying Lizards"が2曲カットされてLP化された。ジャケがオリジナル・デザインということもあって迷わず購入。何気なくこういうレコードを仕入れている15NOVは懐が深い店だ。

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